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明暗を分けた、ソニーと松下のテレビ事業の実態
-ソニーの復活を最も期待しているのは誰か?


松下電器の川上徹也取締役専務
7月28日発表


■ いつもの半分の記者しかいなかった松下電器の決算発表

 いつもならば満杯になるはずの記者席は、ようやく半分が埋まったにすぎなかった。

 7月28日午後5時から行われた松下電器の2005年度第1四半期の連結決算発表の会場。中継で結ばれた大阪会場の映像を見る限り、そちらの記者席はいつも通り満杯だった。日刊紙や通信社では、松下電器は大阪の記者が担当する場合が多い。だから、いつも通りの顔ぶれが揃っていたともいえる。では、なぜ、主会場となった東京会場への出席者が少なかったのか。

 理由は2つある。

 ひとつは、この日、電機大手の決算発表が集中したことだ。松下電器のほか、ソニー、日立製作所、富士通、NEC、東芝などが決算を発表。電機業界担当の記者や証券アナリストは大忙しの一日だった。

 当然、同じ時間にぶつかった会見へと記者が分散したわけだ。また、通信分野と掛け持ちする媒体では、NTTドコモとJR東日本によるモバイルSuicaの会見に記者が流れたこともひとつの要因だったかもしれない。

 そして、もうひとつの理由は、分散した記者のなかでも、ソニーの会見に足止めを食った記者が少なからずいたことだ。

 兜倶楽部での会見のあと、ソニーは一般報道関係者を対象に午後4時10分から大手町で会見を開いた。一方、松下電器は午後5時からの御成門のパナソニック1号館で会見。車で移動すれば10分程度の距離だ。記者が少ない媒体は、ソニーで前半30分間、話を聞いて、松下の5時の会見に間に合うように移動する。実際、最初はそうした動き方を予定していた記者もいた。

 だが、ソニーの驚くべき決算内容に、ソニーの会場で完全に足止めを食った記者が続出した。

 営業利益1,300億円の下方修正を含む通期見通しの大幅下方修正。そして、第1四半期におけるテレビ事業の不振。これを背景にしたエレクトロニクス事業の赤字。株式マーケットでは、「軽いソニーショック」との表現が使われたほどだ。

 「軽い」という表現がつくだけ、まだマシなのだろうが、それでも29日のソニー株は、日経平均株価が上昇するなか、大幅な下落を見せた。

 松下電器の決算会見の終わり際に、川上徹也取締役専務が「今日は、ソニーショックのなか、当社の会見にお越しいただきありがとうございました」と冗談まじりに話したが、それは、躍進21計画の2年度目を迎え、「正念場の1年」(中村邦夫社長)となる2005年度の最初の一歩である第1四半期を、極めて堅調な業績を発表しながらも、少ない記者しか集まらなかったことに対する強烈な皮肉といっていいだろう。



■ 決算の明暗を分けたテレビ事業

 松下電器とソニーの明暗を分けたのは、テレビ事業だった。

 ソニーが発表した第1四半期の決算では、テレビ事業は、売上高で前年同期比20.1%減の1,520億円、営業損失は、マイナス392億円の大幅赤字となった。

 同時に発表した通期業績見通しの修正では、営業利益で1,300億円もの下方修正としたが、このうちエレクトロニクス事業で1,350億円の下方修正。エレクトロニクス事業以外では若干のプラスという計算になる。しかも、エレクトロニクス事業の修正のうち、ほとんどがテレビ事業という状況。さらに、付け加えるならば、1,300億円のうち、構造改革費用で160億円の上積みが含まれ、これもテレビ事業の再編などにあてがわれる。事実上、テレビ事業におけるマイナスは1,350億円プラス構造改革費用ということになるわけだ。

 9月には新経営体制による事業方針を発表するとしている同社だが、このなかには新たな構造改革費用が発生することに同社幹部は言及している。そして、今回の下方修正のなかには、この計画を想定した数字は盛り込まれていない。つまり、さらなる下方修正や、新たにテレビ事業のリストラ策が含まれる可能性もあるだろう。

 今回の発表だけで、下方修正が留まるという見方は早計だといえる。


■ 井原副社長がテレビ事業の説明に時間を割く

ソニーの井原勝美代表執行役副社長

 会見では、当初予定になかった井原勝美代表執行役副社長がこの説明にあたり、決算会見の時間の多くを使って、テレビ事業の実態と、同事業における今後の方針を説明する場とした。

 井原副社長は、今年6月の新体制発足まではグループCFOとして財務面を担当し、ハワード・ストリンガー会長、中鉢良治社長とともに経営の一角を担う立場にいた。だが、株主総会の直後には、グループCFOの任が解かれ、今年4月から兼務で担当していたホームエレクトロニクスネットワークカンパニー(HNC)のNCプレジデント専任として、この事業の陣頭指揮を振っている。

 同NCカンパニーの最大の課題は、テレビ事業。薄型テレビで出遅れたソニーのテレビ事業の復活が、ストリンガー・中鉢体制の課題と位置づけられるエレクトロニクス事業の復活につながり、それがソニー全体の復活へとつながるのである。

 次期社長候補の一角を担うとされる井原副社長をHNCの専任としたのは、ソニーにとってもまさにエース投入ともいえるもの。

 だが、新体制で最大の課題となるテレビ事業の再生においては、まずは大幅赤字という厳しい現状を突きつけられたなかからのスタートとなった。



■ コスト競争力の欠如が不振の要因

 ソニーのテレビ事業不振の要因を、井原副社長は、「コスト競争力の欠如」だと語る。それは、明らかに薄型テレビにおける収益モデルが確立できていないことの裏返しだ。

 「ソニーのブラウン管テレビは、ガラスから作り、セットとして組み上げるまで深いバーチカルバリューチェーンがある。大きな利益を生む体質ができあがっていた。これが液晶にとって変わるなかで、収益面でネガティブなインパクトを与えている」。

 ソニー独自のトリニトロンを擁したブラウン管テレビ事業は、多くの収益を生んだ。世界4極体制で、それぞれに製品開発、生産、販売という体制を構築しても収益を確保でき、しかも競争力のある製品を投入できるといった点も、井原副社長が指摘するように、垂直統合型のバリューチェーンが存在したからだ。

 だが、薄型テレビではその状況が一変した。

 パネルは、他社から調達し、それがようやく今年4月から稼働しているサムスンとの合弁会社であるS-LCDからの調達によって解決したばかり。とはいえ、歩留まりの悪さなどを背景に、予定通りの調達ができない状態が第1四半期の業績悪化に影響した。

 また、当初、上位機のHVXシリーズが売れると予測していたのに反して、普及モデルのハッピーベガが好調な出足を見せた。これを受けた柔軟な生産計画の見直しができなかったのも、ハッピーベガのパネルを他社から調達していたという体制が響いたのは明らかだ。

 今回の発表では、ブラウン管事業とは異なるビジネスモデルを確立することによって、コスト競争力を高めることを、改めて説明する場になったともいえる。

 トリニトロンに代わる薄型テレビのキーコンポーネンツとなる液晶パネルは、S-LCDから調達することになるが、「ソニーが使うパネルに関しては、ソニーならではの技術を盛り込んでいく。これをソニーパネルと呼ぶ」として、パネルそのものの生産はサムスンと一緒でも、画づくりでの差異化を実現する姿勢を示す。

 また、共通シャーシの開発が第2四半期にも完成することに言及し、ブラウン管テレビでとっていた世界4極体制を、基本部分の開発設計に関しては、世界統一体制へと移行することを改めて強調した。

「テレビ事業の黒字展開は来年度下期」とした

 だが、ソニーが持っている、戦うための「材料」は、ブラウン管時代に比べて圧倒的に弱い。唯一、他社に圧倒的に勝てる「材料」は、世界に通用する「ソニーブランド」の存在だけともいえる。

 S-LCDからの調達、共通シャーシだけでは、ソニー自身のコスト競争力は改善できても、競合他社並のコスト体質にまで引き下げることができるかどうかはわからない。さらなる改善策が必要といえる。

 「テレビ事業の黒字展開は、来年度下期。すぐに改善するわけではない」と井原副社長がいうように、この改革は長期化することになる。しかも、来年度通期での黒字化をコミットしたわけではない。少なくとも来年度上期まで続くと見られる赤字のなかで、ソニーは苦しい戦いを強いられることになるのは明らかだ。



■ 強気の姿勢を見せる松下電器

 一方、松下電器は、テレビ事業の好調ぶりが今回の第1四半期の堅調な数字につながったことを示し、ソニーとの差を強調してみせた。

 松下電器の発表によると、第1四半期のテレビ事業の売上高は、前年同期比13%増の1,786億円、そのうちプラズマテレビは72%増の781億円。営業利益については公表していないが、「黒字であることは明らか」というように、ソニーとの差は歴然だ。

 川上取締役専務は、「パネルを自社で生産していること、半導体を自社で開発、生産しているというように、垂直統合モデルを確立していることが、高い競争力につながっている」と語る。

 さらに、「収益確保は、出荷数量が増加することでも、カバーできる。現在、国内の薄型テレビ市場は、当社とシャープで約8割のシェアを持ち、ソニーは5%に留まっている」と発言。続けて、「今後も価格下落といったトレンドは続くことになるだろうが、それは出荷数量の増加で対応できる」などとした。  会見中の川上取締役専務のテレビ事業に関する発言は一貫して強気だった。

 「昭和40年代に、販社の売上高の半分ぐらいをカラーテレビが占めたことがあったが、それぐらいのお化け商品になる雰囲気がある」、「4月に発売したビエラは、発売以来、品不足が続く人気ぶり」、「37インチ以上では9割以上がプラズマテレビ。松下電器は、プラズマテレビでは70%以上の市場占有率を誇る」などのコメントが続き、「当社は、プラズマテレビで年間170万台の出荷を予定していたが、第1四半期の実績から、相当足りないことがわかった。年間210万台の出荷を目指す」と、プラズマテレビの上方修正まで発表してみせた。

37インチ以上でのプラズマの優位性を価格、性能面でアピールした

 今年9月末から10月にかけては、尼崎で、プラズマパネル生産のための第3工場が稼働する。最新整備を用いることで、大幅な生産コストの削減が実現されるという。

 8月にも発表されるであろう年末商戦向けの新製品では、尼崎の生産ライン立ち上げによってもたらされる生産数量の引き上げと、低コスト生産体制によって、これまで以上に価格競争力を持った製品の投入が見込まれるのは明らかだ。

 いわば、ここで松下電器のプラズマテレビ事業が、数量、価格という観点から、もう一段「ギアチェンジ」される可能性も高い。

日本、米国、英国での松下製プラズマテレビの占有率

 また、松下電器はプラズマテレビを中核に据える事業方針を打ち出している環境上、あまり積極的には言及していないが、日立からのパネル調達によるパナソニックブランドの液晶テレビも市場から高い評価を得ている。

 競合会社幹部からも、「松下電器の液晶テレビは侮れない」と品質の高さを評価する声があがっており、そこには松下電器ならではの画づくりのノハウハウが生かさせている。

 ソニーがS-LCDから調達するパネルを「ソニーパネル」というのではあれば、松下電器が提携関係にある日立から調達するISP方式液晶パネルは、「パナソニックパネル」といってもいいだろう。

 この液晶テレビも、実は松下電器の薄型テレビの市場シェア拡大に少なからず影響を与えているのだ。



■ ソニーの復活を期待するのは誰か?

 ソニーと松下電器のテレビ事業が置かれた立場は、想像以上に大きな差が開いてしまったようだ。そのなかで、黒字化が来年下期まで見込めないソニーが置かれたいまの状況を見る限り、テレビ事業への取り組みをギアチェンジするであろう松下電器との差は、さらに拡大することになる。

 松下電器のある幹部は、「薄型テレビは、ソニーと戦うことに意味がある」と、世界戦略を仕掛ける上で、ソニーと戦うことを望んでいる。これはいま置かれた立場の優位性などを背景に語っているのではない。心底、そう思っていることが伝わってくる。

 それは、日本のメーカーが、全世界の薄型テレビ市場で存在感を発揮するためにも、松下電器とソニーとの戦いが必要不可欠ということを松下電器幹部は知っているからなのだ。

 ソニーのテレビ事業復活を最も期待しているのは、実は松下電器だといえるのかもしれない。


□松下電器のホームページ
http://panasonic.co.jp/
□ソニーのホームページ
http://www.sony.co.jp/
□決算情報(松下電器)
http://panasonic.co.jp/corp/news/official.data/data.dir/jn050728-1/jn050728-1.html
□決算情報(ソニー)
http://www.sony.co.jp/SonyInfo/IR/info/presen/
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(2005年8月1日)

[Reported by 大河原克行]


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